2007年8月1日水曜日

従軍慰安婦問題とマルクス・ゾンビ

 7月30日、アメリカ下院本会議でいわゆる従軍慰安婦に関する「対日謝罪要求決議案」が可決された。
 この問題は池田信夫氏が簡潔に指摘しているように朝日新聞の誤報にはじまる「存在しない問題」であって、河野洋平官房長官(当時)がその場しのぎの対応をしたために、「存在しない問題」が一人歩きするようになってしまった。マイク・ホンダ議員は従軍慰安婦の根拠を問われると河野談話を持ちだしており、日本流のその場しのぎの対応が国際的にどんな禍根を残すかという実例になった。
 河野氏の責任は重大だが、当時の雰囲気を知る者としては左翼団体が組織防衛のために利用していたことを指摘しておきたい。
 朝日新聞の誤報が出た1992年はベルリンの壁崩壊の2年半後のことであり、左翼団体が一番意気消沈していた時期だった。モスクワの秘密文書館の封印が解かれ、隠されていたおぞましい事実が次から次へと出てきた。加藤昭氏らの努力によって日本の共産主義運動の暗部も暴かれていった。日本共産党の象徴だった野坂参三氏が二重スパイだったことが判明し、除名されたのは1992年の末だった。あの頃は日本共産党だけではなく、左翼全体が出口なしの状況におちいっていた。「シャミン」(社会民主主義)が侮蔑語だったことからもわかるように、日本の左翼はマルクス主義一辺倒だったために、マルクス主義がこけると左翼全体がこけてしまったのだ。
 ベルリンの壁崩壊以前からマルクス主義者は未来を語れなくなっていたが、モスクワの秘密文書館が解放されたために、過去も語れなくなってしまった。
 その中で飛びだしたのが朝日新聞の誤報であり、それを機に左翼団体は息を吹きかえし、従軍慰安婦問題をおしたてて運動を再組織した。
 これはマルクス信仰を失ったマルクス主義者に特有の反応パターンだ。
 北朝鮮は日本人拉致という犯罪行為を相殺するために、脱北した日本人妻を呼びもどし、日本が北朝鮮公民を拉致したとしてプロパガンダに利用した。中国は中国製品の欠陥を外国から指摘されると、その国から輸入している製品に難癖をつけ、輸入禁止にするという対抗措置をくりかえしている。彼らはもうマルクス主義を信じていないので、相手の真似をするしか方法がないのである。
 従軍慰安婦問題や強制連行問題では日本の左翼団体は学問的にとっくに否定されている材料に固着しているが、彼らはマルクス・ゾンビであり、組織防衛のためにはそうするしかないのだということを理解しておく必要がある。