「モータサイクル・ダイアリーズ」
医学生だった22歳のゲバラ(ガエル・ガルシア・ベルナル)は、化学技師をやっていたアルベルト・グラナード(ロドリゴ・デ・ラ・セルナ)という青年とともに南米大陸を南の端から北の端までバイク旅行をした。その時の旅日記を映画化したのがこの作品である。
バイク旅行といっても、バイクはチリにはいったところで壊れてしまい、後は徒歩とヒッチハイクである。世慣れたグラナードにくらべてゲバラは潔癖でナイーブだったが、すくない所持金で旅をつづけていくうちに世術を身につけたくましくなっていく。
裕福な家庭で育ったゲバラはこの旅で社会の矛盾を目のあたりにするが、映画は二つのエピソードをとりあげている。
第一は警察に追われているインディオの夫婦との出会い。共産党に関係したために二人は家を焼かれ、指名手配を受けていた。わかれる時、ゲバラは恋人からもらった虎の子のドルをわたしている。
第二はハンセン氏病の療養施設。ゲバラはハンセン氏病を専門にしていて、旅に出る前、ハンセン氏病の権威の医師に手紙を出していた。旅費が底をつき、二人は医師宅にしばらく居候するが、奥地の療養施設を紹介される。施設は修道会が運営していたが、患者を河の真ん中の島に隔離し、患者に触れる時にはゴム手袋をするとか、ミサに出ない患者には昼食をあたえないとか、理不尽な規則がある。ゲバラとグラナードはゴム手袋を拒否して対等に接し、深い友情が生まれる。
映画の最後には老いたグラナード本人が登場する。映画で描かれるグラナードはラテン気質そのままの女好きの軽い男だが、キューバ革命の成功後、彼はゲバラに招かれてカストロ政権の一員となり、要職を歴任したという。赤い貴族になったということか。
グラナードはこの映画にアドバイザーとして参加し、その模様は「トラベリング・ウィズ・ゲバラ」というドキュメンタリー映画になり、日本でも公開されている(DVDは単体では発売されず、コレクターズ・エディションの特典ディスクに収録)。
ロマンチシズムあふれるいい映画だったが、素直に楽しめたのはゲバラが夭折したからだと思う。老醜をさらしたり、仲間に粛清されていたら、ゲバラ神話は生まれていなかったろう。