2007年8月8日水曜日

「ブラックブック」

 ポール・バーホーベンがオランダに帰って作ったナチ・ユダヤ人もの。144分の長尺で、二転三転する複雑なストーリーだが、みごとなストーリーテリングで最後まで引きこまれた。第一級のエンターテイメントといえよう。
 主人公のラヘル(カリス・ファン・ハウテン)は裕福なユダヤ人家庭に生まれ、大戦前は歌手をやっていたが、ナチがオランダに侵攻してくると、かねて話をつけてあった農家に匿ってもらう。ドイツの敗色が濃くなった頃、連合軍の爆撃機が捨てていった爆弾で農家がふきとんでしまう。
 住家を失った彼女は農家の青年に匿ってもらうが、レジスタンスの一員らしい男に家の焼跡から彼女の身分証明書が見つかり、警察が行方を探していると警告される。彼女は男に勧められるまま、米軍占領地域に逃れるグループにくわわることにする。公証人から全財産を受けとり、待ちあわせ場所にゆくと、別の場所に隠れていた父母と兄もいた。
 ユダヤ人たちは艀に乗せられ、夜陰に乗じて川をくだっていくが、ドイツ軍の待伏せにあい、皆殺しにされる。川に飛びこんでただ一人生き残ったラヘルはドイツ兵が死体から財産を奪っていくのを目撃する。
 天涯孤独となった彼女はレジスタンスの一員となり、エリスと名前を変え、波瀾万丈の活躍をはじめるが、レジスタンスが決して一枚岩でないのがおもしろい。愛国者グループはオランダ女王に忠誠を誓うが、共産主義者はその場面になるとそっぽを向いてしまう。ユダヤ人に対しても微妙な距離があり、心の底では信用していない。
 レジスタンスの企てた作戦が内通者によって失敗し、多くの犠牲が出るが、エリスは内通者に仕立てられ、ドイツ軍降伏後も追われる立場になる。最後の最後に本当の内通者が明らかになるが、それは意外な人物だった。
 エンターテイメントには違いないが、オランダの庶民の間に根強く存在するユダヤ人嫌いの感情をはしばしで描いている。こういう映画はハリウッドでは作れないだろう。