2007年8月16日木曜日

「五木寛之 21世紀・仏教への旅」ブータン編

 「仏教への旅」第3夜はチベット仏教を国教とする唯一の国、ブータンをとりあげていた。本は『21世紀 仏教への旅 ブータン編』が出版されている。
 ブータンは1970年代まで鎖国をつづけていたので「秘境」のイメージが強いが、今は多くの外国人が訪れ、衛星放送やインターネットで情報が流入しているのは「ザ・カップ 夢のアンテナ」を見てもわかる。
 ブータンは近代化途上の国だが、近代化には地域差がある。ブータンは九州程度の面積とはいえ、ヒマラヤの山腹にひろがっているために、数千メートル級の山脈によって国土が細かく分断され移動がままならない。五木寛之一行も相当難渋していた。
 五木は近代化のある程度進んだ首都近辺と、ブータン古来の姿をとどめる中央ブータンの二ヶ所でブータン仏教の現在をさぐった。中央ブータンの方は大体予想通りの映像で、首都近辺の方が興味深かった。英語はブータンの公用語の一つになっているが、ドテラのような民族衣装の人も普通に英語を喋っていた。英語で答えることのできる人のインタビューだけを選んだのだろうが、英語の普及度は高そうだ。服装は欧米風も多かったが、当たり前にマニ車をまわし、インタビューされると輪廻転生の世界観と仏教の教えを語り、ブータンの代名詞のようになっている「国民総幸福量」(Gross National Happiness)にふれた。編集がくわわっているにしても、近代化と仏教文化の共存はうまくいっているように見えた。
 「国民総幸福量」はともかくとしても、インテリたちが近代化に焦っていないのは確かなようだ。ブータンが開国したのは先進国の行き詰まりが明らかになってからだから、立ちどまって考える余裕があるのだろう。
 国家シンクタンクにあたるらしいブータン研究所の所長で、欧米や日本に留学経験のあるカルマ・ウラ氏と、ブータン仏教界の重鎮のロポン・ペマラ師に、子供から「どうして人を殺してはいけないのか」と訊かれたら、どう答えるかと質問していたが、二人の受け答えには自信があふれていた。日本のインテリには、この質問に彼らほど自信をもって答えることのできる人がどれだけいるか。
 もっとも、答えの内容は輪廻転生を前提とした仏教的なものだった。日本の子供たちがあの答えで納得するかどうかは別である。
 ブータン仏教にも問題がないわけではない。チベット仏教でいう活仏(高僧の生まれ変わり)をブータンでは化身というが、近年、化身が増えすぎたことが問題になっているという。国が把握しているだけで百人以上いて、化身の増加に歯止めをかけるために化身認定委員会が作られている。
 「ザ・カップ 夢のアンテナ」は化身の高僧が監督したことが話題になったが、出演した少年僧の大部分も化身だった。化身の人気は絶大なので、うちの寺にも化身がほしいと考える人が多いということだろう。