2007年8月14日火曜日

「五木寛之 21世紀・仏教への旅」インド編

 昨年、NHKで一年がかりで放映されたハイビジョン特集「五木寛之 21世紀・仏教への旅」シリーズの再放送がNHK総合ではじまった。
 仏教はインドでおこり、東アジアと東南アジアにひろがり、今、欧米にも影響力をおよぼしつつあるが、その現状を五木がレポートしている。
 全5回のうち、今日は第1回のインド編である。小乗経典の方の涅槃経(『ブッダ最後の旅』)に記された霊鷲山から釈尊終焉の地、クシナガラにいたる道程を五木がたどる。旅の模様は『21世紀 仏教への旅 インド編』として本になっている。DVDはまだ発売されていないが、評判の番組だから出るかもしれない。
 霊鷲山からクシナガラまではおおよそ400kmある。華やかな色の合成繊維の衣類やプラスチック製品がゆきわたっているが、広大なサバンナと照りつける太陽は2500年前と変わっていないだろう。釈尊一行が滞在したマンゴー林を彷彿とさせる果樹園も登場した。五木は冷房つきの自動車で移動したが、炎天下、悪路の旅は体にこたえたようだ。
 釈尊はパーヴァ村の鍛冶工の子チュンダのさしあげたきのこ料理にあたり、それがもとでみまかった。毒きのこがまじったいたのではないかとみられている。
 ヨーロッパではユダヤ人はキリストを処刑した呪われた民族として迫害された。鍛冶工は伝統社会では差別の対象であり、釈尊の毒殺の嫌疑をかけられてもおかしくない状況だった。釈尊はきのこ料理の異変に気づくと、ただちに料理を土中に埋めるように言いつけ、チュンダに責任がおよばぬように最大限の配慮をおこなっている。仏教は四姓平等を標榜する宗教だけに、鍛冶工を釈尊毒殺の張本人として追求するようなことはなかったようである。
 五木は現代のパーヴァ村を訪れ、鍛冶屋を見つける。さすがにチュンダの子孫ではなかったが、鍛冶屋の主人は釈尊が村を訪れたという伝説を伝えていた。仏教はインドでは滅びたが、釈尊はヴィシュヌ神の化身としてヒンズー教のパンテオンにとりいれられたので、伝説が残ったのだろう。
 番組では中村元訳の朗読が挿入されたが、繰りかえしの多い行文は耳で聞くと抵抗なくはいってくる。シリーズの今後を期待させるいい番組だった。