「五木寛之 21世紀・仏教への旅」中国・フランス編
「仏教への旅」第4夜は禅宗をとりあげていた。本は『21世紀 仏教への旅 中国編』が出版されている。
まずフランスの禅ブームを紹介し、次に禅の源流である中国を訪ねるという段取である。
フランスの禅ブームはブームとはいっても、一過性の底の浅いものではなく、社会の一角にしっかり根をおろしているようである。
今日の禅の隆盛をもたらしたのは弟子丸泰仙師だった。弟子丸師は1967年にフランスにわたり布教をはじめたが、まず1968年の5月危機で挫折し、方向を見失っていた学生の心をつかみ、しだいに地歩を固めていった。今ではインテリのみならず、ビジネスマンや労働者に間にも禅の実践者が増えているという。弟子丸師は禅を宗教としてではなく、心を安静にする技術として伝えたので、カトリックの内部でも禅がおこなわれている。
弟子丸師は自分は種をまいただけで、フランスにはフランスの禅があるから、日本の禅のまねをする必要はないとくりかえし語っていたそうだ。そうはいっても、コアな修行者は日本の禅寺そっくりの道場を作り、厳粛な修行をおこなっているようだ。キリスト教には修道院の伝統があるから、禅寺のスタイルはそれほど抵抗がないのかもしれない。
中国編は禅を中国化し、民衆に根づかせた六祖慧能が中心だった。五木は慧能の創建した南華寺を訪れた。住職はこの寺の僧侶はみな慧能直系の弟子ですと胸を張っていたが、驚いたのは自由な座禅のスタイルだ。団扇であおぎながら座っているのである。これが南宗禅なのか。慧能の自由闊達な精神は禅宗よりも道教がうけついだと道教関係の本に書いてあって、それを真に受けていたが、どうもそうではなかったようである。