2007年10月4日木曜日

「そして、デブノーの森へ」

 イタリアの文化財ものの図書館で開かれた討論会の場面からはじまる。討論会のテーマはセルジュ・ノヴァクという覆面のベストセラー作家で、壇上には代理人の編集者があがっている。最後列で見ているダニエル(ダニエル・オートゥイユ)がノヴァク本人で、彼はさっさと会場を離れ、ナポリに向かって車を走らせる。ナポリの沖のカプリ島で義理の息子、ファブリツィオ(ジョルジョ・ルパーノ)の結婚式があるからだ。
 カプリ島にわたる船上で彼はミラ(アナ・ムグラリス)というイディッシュ語を話す美女と出会い、彼女に誘われるまま一夜をともにする。翌朝、彼女と別れて結婚式場につくが、花嫁としてあらわれたのはミラその人だった。
 ミラは新婚の夫をさしおいて、ダニエルに接近してくる。ミラはモデルで、豪勢な匿れ家を持っていたが、同じポーランド出身というエヴァ(マグダレーナ・ミエルカルツ)という女が影のようにつきしたがっていた。
 最初はオヤジの危険なアバンチュールで引きつけるが、半ばから復讐の物語であることが明らかになってくる。エヴァはダニエルの自殺した親友の娘で、彼女はダニエルの処女作は自分の父の作品の盗作だと、巨額の金を要求してくる。ミラはエヴァの復讐のためにダニエル一家に近づいたのか。
 アナ・ムグラリスの挑戦的なまなざしがどきどきするほど魅力的だが、そのまなざしには意味があったことが最後のどんでん返しであきらかになる。ダニエルが覆面作家として活動してきたことにも、二重の意味があったことがわかる。
 盗作というと「私家版」という傑作があるが、こちらはどっちがどっちを盗んだともいえない親友どうしの魂の結びつきにふれており、実に深い。
 ダニエルの妻という脇役だが、久々のグレタ・スカッキがいい味を出している。若い頃の彼女はただの美人女優で薄味だったが、年齢を重ねて、いい意味で貫禄が生まれている。
 しかし、この映画の成功はアナ・ムグラリスの存在によるところが大きい。なんという美貌だろう。『NOVO』に主演しているということだが、見のがしてしまった。ぜひ映画館で見たい。