2007年10月18日木曜日

「世界最速のインディアン」

 ニュージーランドの片田舎に住む老スピード狂、バート・マンロー(アンソニー・ホプキンス)が62歳にしてアメリカに渡り、世界記録を打ち立てるまでを描いた実話。のんびりはじまったが、途中ではらはらさせ、最後は感動させてくれた。故ファーンズワースの「ストレイト・ストーリー」に通じる風格がある。
 バートは草ぼうぼうの掘っ建て小屋に住み、40年前に買った当時最速のバイク、インディアン・スカウトのチューニングだけが生き甲斐の老人だ。庭の草刈りをしないので、周囲からは困った変人と見られている。
 彼はモーターレースの聖地、アメリカのボンヌヴィル・ソルトフラッツで走るのが夢だが、年金暮らしのためにいつ実現するか当てがない。しかし、狭心症の発作を起こしたのを期に、家と土地を抵当にいれて旅費を工面し、ボンヌヴィルに出発する。
 旅費がぎりぎりしかないので愛車を運ぶ貨物船にコックとして無料で乗せてもらいアメリカにわたるが、アメリカでは完全なおのぼりさん状態で、本当にボンヌヴィルに辿りつけるのだろうかとはらはらさせられる。
 バートの純朴な人柄に、会う人、会う人がみな親切にしてくれて、なんとか憧れのボンヌヴィルに到着する。夕暮の塩湖の底に立ち、過去のレーサーを回顧する場面は老境に達したアンソニー・ホプキンスだからこそ演じることのできた場面で感動した。
 しかし、本当にはらはらするのはこれからだ。バイクの知識がなかったのでわからなかったが、1920年代製のインディアン・スカウトで現代のレースに出るのは、ジェット機のレースに複葉機で参加するようなもので、ありえないことだったのだ。バートの参加資格をめぐって二転三転するが、最後にニュージーランドからやってきた老人に敬意を表して、テスト走行という名目で走ることが許可され、バートは予想外の好タイムを出す。
 ここからがアメリカ人のいいところで、実力があるとわかるとすぐに正式参加が認められ、バートは世界記録を更新する快挙をなしとげる。実話だというのがすごい。
 ロジャー・ドナルドソン監督は1971年にバートのTVドキュメンタリー"Offerings to the God of Speed"を撮って以来、この企画をあたためつづけていたそうで、34年かかった実現したことになる。これはこれでドラマである。ゴッド・オブ・スピード・エディションと銘打った特別版DVDの特典ディスクには1971年のドキュメンタリーが収録されているという。見てみたい気がする。