「たとえば野に咲く花のように」
新国立劇場中劇場で鄭義信作、鈴木裕美演出の「たとえば野に咲く花のように」を見た。
新国立劇場は今年7月、芸術監督が栗山民也から鵜山仁に交代したのを機に「三つの悲劇」と題して、ギリシャ悲劇を現代日本に翻案した新作三本を上演する。「たとえば野に咲く花のように」はその第二作にあたる。
舞台は1951年夏の九州の場末のダンスホール。下手に玄関。中央下手寄りに大きな階段。上手寄りにバーのカウンター。上手には窓が大きく切られている。二階はダンサーたちの個室で、そこで客をとるようになっている。
港町という設定で、町は朝鮮戦争特需で景気がいいが、表通りに特需成金の安部康雄(永島敏行)が立派なダンスホールを開店したので、こちらは閑古鳥が鳴いている。ダンサーは三人に減り、マザコン気味の自衛隊員など、常連にたよって細々と営業している。
ヒロインの安満喜(七瀬なつみ)は弟と二人暮らしだが、弟は戦時中、憲兵だった引け目から北朝鮮に肩入れし、米軍妨害工作にくわわっている。
ある夜、弟の仲間がライバル店の支配人の直也とオーナーの康雄に追われてダンスホールに逃げこんでくる。満喜は彼をかくまい、一歩も引かずに毅然と応対するが、康雄は満喜の気っ風に惚れ、毎晩通ってくるようになる。
康雄は満喜に結婚を迫るまでになるが、満喜は日本軍に志願して南方で死んだ婚約者が忘れられず、申し出をはねつける。
康雄の婚約者のあかね(田畑智子)は康雄の心変わりにアル中になり、店に怒鳴りこんできたりするが、まともにとりあってもらえない。あかねを慕う直也はあかねの心中を察して、康雄に刃を向けるが……。
ラストは意外にもハッピーエンド。三人のダンサーはそれぞれ妊娠してダンスホールを去っていく。女はたくましい。
「アンドロマケ」をもとにしているというが、どこが「アンドロマケ」なのか首をかしげた。朝鮮戦争で儲けた成金と朝鮮人娼婦の話なので、まったく無関係とまではいわないが、当時の在日韓国・朝鮮人は自分たちを戦勝国の一員と思いこんで傍若無人にふるまっていたわけで、亡国の王妃に見立てるのは話が違う。
しかし、朝鮮戦争当時の荒くれた世相を描いた風俗劇としてはよくできている。あれこれあっても、結末は希望を感じさせる。
七瀬なつみは鉄火肌の娼婦を熱演し、新境地を開いた。出番はすくなかったが、アル中のお嬢様を演じた田畑智子の可愛らしさは特筆したい。彼女のためだったら、直也が狂うのも無理はない。