「お熱いのがお好き」
マリリン・モンロー、トニー・カーティス、ジャック・レモンが顔をそろえたコメディ映画の古典である。遅ればせながら見たが、これは傑作中の傑作だ。
舞台は1929年2月の禁酒法時代のシカゴ。映画の公開は1959年だから、30年前の話という設定だ。1929年は10月に大恐慌がおきているから、2月はバブル景気が最後の暴走をはじめた時期にあたるだろう。
冒頭、夜の街を霊柩車とパトカーが派手に撃ちあいをしながらカーチェイスをくりひろげる。それだけでもおもしろいのに、車はどちらも1920年代のクラシックカーだ。
霊柩車が棺桶に隠して運んでいるのは密造酒で、葬儀社の地下にはゴージャスな地下酒場があり、夜な夜な乱痴気騒ぎ。そこへ警察の手入れ。
しがないバンドマンのジョー(カーティス)とジェリー(レモン)は潜入した刑事に気づき、警察が突入する寸前に逃げだす。逮捕を免れたものの、二人は寒空のシカゴで路頭に迷う。やっと見つけた仕事に行くために女友達から車を借りるが、そのガレージでマフィア同士の抗争をを目撃してしまう。「聖バレンタインデーの虐殺」と呼ばれる事件だ。
二人はマフィアの大親分(アル・カポネがモデルだが、名前は変えてある)に追われる身となり、シカゴから逃げるために女装して女だけのバンドにもぐりこんでフロリダに向かう。そのバンドのウクレレ兼ヴォーカルがマリリン・モンローである。
ここまでは前置きで、本篇は暖かなフロリダのリゾートホテルが舞台となる。一人二役や勘違いといったコメディでおなじみの手法で笑わせるが、観客はこの後に大恐慌が来ることを知っているわけで、それが物語の隠し味になっている。
マリリン・モンローは私生活では睡眠薬でボロボロになっていたが、映画の中ではひたすら明るく、無垢で、可愛らしい。