「NARA:奈良美智との旅の記録」
不機嫌な少女像でおなじみの画家、奈良美智のドキュメンタリーで、2005年6月のソウルの個展から2006年7-10月に青森県弘前市で開催された「A to Z」展にいたる500日間を追っている。この間に奈良は横浜、ニューヨーク、大阪、ロンドン、バンコクで個展を開き、さらにアトリエを引っ越している。
アトリエといっても、陽光の燦々とはいるアトリエを想像してはいけない。ニューヨークのアーティストが使っているようなだだっ広い倉庫ともちがう。商店街の空き店舗を借りているらしく、出入り口は引きあげ式のシャッターだ。壁は広いが、雑然としている。外光ははいらず、しけた蛍光灯をつけて仕事をしている。
村上隆のアトリエを紹介したTVを見たことがあるが、助手がたくさんいて工務店の作業場みたいに活気があった。村上隆は中小企業の社長のように貫禄たっぷりだったが、奈良は一人だけで刷毛を動かし、しばしば考えこみ、学生のように自信なさげだ。
製作は孤独な作業だが、個展はちがう。会場スタッフや観客が係わってくるのはもちろんだが、奈良の場合、会場の中に小屋を作り、その中に展示するスタイルをとるようになったので、小屋を作るスタッフが参加しているのだ。
小屋の製作は grafという大阪に本拠をおく会社が担当している。grafは「クリエイティブユニット」を名乗っているが、ふだんはおしゃれなレストランやバーの内装を手がけているらしい。個展の準備がはじまると、grafの豊嶋は奈良にマネージャーのようにつきそっている。grafのスタッフは若く、学生サークルの延長のように見えなくはない。
さて、「A to Z」展である。この展覧会は奈良の故郷である弘前市で開かれた。会場となったのは酒造会社の煉瓦造りの倉庫で、架空の街並を作りあげるという、小屋を使った展示の集大成というべきものだったようだ。grafだけではできないので、全国からボランティアを募り延べ4600人が参加したそうだが、映像で見る限り、ほとんど学園祭のノリだ。奈良の作品は一枚数千万円はくだらないらしいが、こんなに日常的な場所で作られていたのである。
ファンとの交流場面が出てくるが、まったくアイドル化している。特に韓国の女性ファンはミーハー気質まるだしだ。彼らは絵は買えなくても、奈良グッズをどっさり買っていく。
村上隆の作品もそうだが、奈良も複製時代の申し子で、アウラなしの作品で勝負しているということか。