2007年10月22日月曜日

「長江哀歌」

 「世界」の賈樟柯監督のヴェネツィア映画祭金獅子賞受賞作。「世界」は北京に出てきた若者の話で、それなりに希望があったが、こちらは三峡ダムで建設ラッシュにわく地域に人探しに来た中年男女の話。題名からすると長江の雄大な景色が出てきそうだが、埃と汗の臭いの立ちこめる工事現場や貧民街ばかりで、観光映画的な趣向はまったくない。
 山西省の炭鉱で働くハン・サンミンは16年前に出ていった妻の実家を尋ねて長江の村にやってくるが、そこはすでに湖の底に沈んでいた。サンミンはダム湖際の安宿に泊まり、飯場で働きながら妻と一人娘を探そうとする。やっと船で働く妻の兄を見つけるが、けんもほろろに追いかえされる。サンミンの妻は嫁不足から金で買った妻で、田舎の暮らしに耐えられず、実家に逃げ帰った経緯があるからだ。娘にどうしても会いたいというサンミンに、義兄はあれはお前の子供ではないと言い放つ。それでもサンミンは娘に会いたいという気持ちを断ち切れない。
 一方、やはり山西省で看護婦をしているシェン・ホンが出稼ぎにいったまま音信の途絶えた夫を探しに長江へやってくる。ホンは夫の軍隊時代の親友のワン・トンミンを訪ね、夫の職場に案内されるが、多忙を理由に会ってもらえない。夫はやり手の女社長に気にいられ、不動産デベロッパーの現地責任者に抜擢されていたが、違法の住民立ち退きなど阿漕な仕事に手を染めていた。ホンはそんな事情は知らず、会おうとしない夫に不安をつのらせる。
 国家プロジェクトの進む三峡地域には多くの寄る辺ない人が吹きよせられてきて、貧富の格差が剥きだしになっている。取り壊しと建設とマネーゲームで人心はすさんでいるが、それでも人情がわずかに残っていて、賈監督は二人の外来者の目を通して、そのわずかに残った人情を描いている。真面目に作られているが、「世界」のような華はなく、疲労感ばかりが残った。