2007年7月12日木曜日

「Love Letter」

 岩井俊二作品の中でも評価が高く、早稲田松竹が今回の特集上映のためにとったアンケートでは「花とアリス」についで第二位につけている。ずっと見たいと思っていたが、今回、ようやく映画館で見ることができた。早稲田松竹に感謝する。
 「ふたりのヴェロニカ」に触発されて作ったというだけに、中山美穂が一人二役で演じる神戸と小樽の二人の女性が登場する。
 「ふたりのヴェロニカ」ではフランスとポーランドのヴェロニカは天の配剤というか、神の気まぐれというか、なんだかわからないのにそこにいるのであるが、「Love Letter」の場合は合理的にきれいに説明がつく。
 二人を結ぶのは神戸の渡辺博子(中山美穂)の婚約者で、山で遭難して死んだ藤井樹(柏原崇)である。
 樹の三周忌の後、博子は樹の中学の卒業アルバムを見つけ、巻末の名簿の住所に手紙を出してみる。樹は中学時代は小樽に住んでいたが、その家はすでにとりこわされ、道路になっていると聞かされていた。
 博子にすれば天国に手紙を出すような気まぐれだったが、なぜか藤井樹(中山美穂)という人物から返事が来てしまう。はじめはからかわれているのかと思ったが、その藤井樹は博子の知っている藤井樹の同姓同名のクラスメートだった。博子は小樽の樹に中学時代の彼の思い出を教えてくれと頼みこみ、二人の文通がはじまる。
 小樽というハイカラな街を背景に幼い恋がみずみずしく語られ、その記憶の一つ一つに、現代の二人の女性の心が微妙に揺れる。蜘蛛の糸の震えのような心の微細な動きを描いていく岩井の手際は冴えに冴えていて、彼の最高傑作といってもいいかもしれない。
 唯一引っかかるのは中学時代の樹を酒井美紀が演じていることだが、タイムマシンがない以上、しかたのないことである。
 懐かしいモノがたくさん出てくるが、中でも図書の貸出カードと手紙が重要な小道具として登場している。貸出カードも手紙もIT革命で絶滅してしまったが、ついこの間まではメディアとして現役だったのだ。