2007年7月5日木曜日

「パフューム」

 すごい映画だ。ジュースキントの原作もすごいらしい。
 人間離れした鋭敏な嗅覚をもって生まれたジャン=バティスト・グルヌイユという男の一代記で、彼に係わった人間は母親にはじまり、乳児院の院長、皮なめし職人の親方、香水店の主人……と、みな不慮の死をとげている。
 一人前の調香師になったグルヌイユは香水の都、グラースにおもむくが、彼はここで究極の香りを作りだすために連続殺人を犯す。女体から香りを抽出するために蒸留塔で煮たり、冷浸法で動物の油脂を塗りたくったりして、最高の美女13人を犠牲にする。
 観念に取り憑かれるのはホモ・サピエンスの雄の性で、グルヌイユは「ゾディアック」の男たちに通ずるものがある。「ゾディアック」の男たちは幸か不幸か犯人を捕らえることができなかったが、グルヌイユは究極の香りを我がものにしてしまう。
 究極に到達できたのはグルヌイユが無だったからだ。彼は生まれ落ちた時に母親に殺されかけたし、長じて調香師になってからは自分には体臭が欠けていることに気づく。すべてを臭いというチャンネルで認識するグルヌイユにとっては、自分自身は存在しないも同じなのだ。彼は彼にふさわしい最期をむかえる。
 ダスティン・ホフマン、アラン・リックマンといった曲者の中で、グルヌイユ役のベン・ウィショーは健闘している。グルヌイユのミューズとなるレイチェル・ハード=ウッドは清潔感のある美人だが、存在感が薄く、ジュリア・オーモンに似た印象がある。オーモンのように消えなければいいが。