2007年7月8日日曜日

「アルゼンチンババア」

 吉本ばななの小説を「鉄塔武蔵野線」の長尾直樹が映画化したもの。
 アルゼンチンビルと呼ばれる変なビルが野原の真ん中に立つ田舎町が舞台である。アルゼンチンビルには、アルゼンチンババアと呼ばれる謎の女性(鈴木京香)が住んでいる。
 母(手塚理美)が亡くなった日、石屋をいとなむ父(役所広司)が行方不明になる。一人残されたみつこ(堀北真希)はマッサージ店でアルバイトしながら、けなげに生きている。
 半年後、父はアルゼンチンビルにいるところを発見される。みつこはすぐにむかえにいくが、父はアルゼンチンババアといい仲になっており、ビルの屋上に石でマンダラを作るのだと言いはり、とりつく島がない。叔母(森下愛子)も乗りこんでいくが、あえなく撃退される。
 妻を失い、壊れてしまった中年男がアルゼンチンババアという異人に癒される話だが、娘の視点から描いているのが成功している。ばなな作品的なひねりはあるが、あくまで正統派のコメディであり、豊かな余韻が残る。
 堀北真希の作品ははじめて見たが、今の頽廃した日本に、こんな背筋のシャンとした女優がいたとは驚きである。過去の作品も見たくなった。
 鈴木京香をアルゼンチンババアに配したのはきわどいところで成功している。夏木マリだったら、妊娠という結末が呑みこみにくい異物になってしまっただろう。役所広司はヒッピー風の格好が案外似合っている。森下愛子はいつもながらうまいが、役所広司の妹=堀北真希の叔母にちゃんと見えるところがいい。