「憑神」
浅田次郎原作を降旗康男監督が妻夫木聡主演で映画化。
降旗康男は大味だし、浅田次郎流の人情噺はおもしろいと思ったためしがなかったが、この映画はよかった。浅田原作らしくこぢんまりとまとまっているが、ほら話的な広がりがある点がこれまでとは違う。
主人公の彦四郎を榎本武揚といっしょに英学を学んだ秀才にして、幕末の動乱につなげる程度はすぐに思いつくだろうが、先祖が大阪夏の陣で家康の盾になって死んだ足軽で、その功績から代々影鎧の番を仰せつかる家柄にしたのは秀逸。彦四郎というアナクロな存在の滑稽味と哀しみが一段と深くなった。
彦四郎は榎本が祈って出世の糸口をつかんだというミメグリイナリに手をあわせるが、ミメグリはミメグリでも三囲稲荷ではなく、三巡稲荷という別の神様だった。
間違った神に祈ったばかりに、彦四郎は貧乏神、疫病神、死神に次々ととりつかれる。最初の貧乏神が西田敏行、次の疫病神が赤井英和とベテランをもってきて、最後の死神に子役の森迫永依を使うキャスティングもみごとで、三人ともいい芝居をしている。
彦四郎はボケ役で振りまわされる一方だが、神様たちに同情されるイノセントな人柄がよく出ていた。彦四郎の兄の左兵衛(佐々木蔵之介)はずいぶんふざけた侍だが、案外、江戸にはああいうタイプはいたかもしれない。
愛すべき小品だが、残念なのはラスト。上野戦争が中途半端だったし、その後に現代編をくっつけて、浅田次郎本人を出したのは蛇足。