「花影」
大岡昇平の名作を川島雄三が池内淳子主演で映画化したもの。ほぼ原作通りで、ヒロインの葉子(池内)が勤め先のバーを出た後、自殺するまでの一日の間に過去を回想するという構成である。一瞬も気が抜けない。
葉子は深情けの昔気質の女で、「最後の女給」と呼ばれている。彼女は男に尽くしぬくが、ことごとく裏切られ捨てられてしまう。女盛りをすぎかけていたが、たくわえはなく、最後に選んだのは自殺だった。
大昔、原作を読んだ時は、舞台が銀座だし、有名人をモデルにしたとおぼしい人物がちらほら出てきて豪勢な印象だったが、今、映像で見ると、ひどく貧乏くさい。銀座のバーとはいっても、湿気がよどんでいて、トイレの臭いがしてきそうなのである。
セットがしょぼいだけではなく、登場人物たちはみないじましい。TV局のディレクターとか、美術評論家とか、酒造会社のオーナー社長とか、銀座にバーを二軒持っているやり手のママとか、それなりの肩書きがあるが、どうしてああセコいのか。
うろ覚えだが、原作は美学的な自殺だったように記憶している。映画では美学的な色彩は薄く、将来を悲観したありきたりの自殺のような印象を受けた。華やかな原作がしぼんでしまったような気がする。