2007年7月6日金曜日

「女は二度生まれる」

 富田常雄の『小えん日記」を川島雄三が若尾文子で映画化したもの。前半は浮草稼業の女を描いた辛口のコメディだが、後半は女の自立というテーマが表に出てくる。
 小えんは神楽坂の芸者で、明るく生活力旺盛なところは「ぼんち」のぽん太と重なるが、ぽん太が芸を売るまっとうな芸者だったのに対し、小えんは体しか売物のない不見転芸者だ。いきなり建築士の筒井(山村聰)と同衾する場面からはじまるが、その後も売春防止法を気にしながら次々と客をとっている。客として知りあった寿司職人の矢島(フランキー堺)の勤める店に自分から堂々と出かけていくあたり、娼婦ではなく芸者なのだが、売物買物であることに違いはない。
 客をとるのは靖国神社の近くの旅館で、朝五時に神社から大砲の音のような太鼓の音が聞こえきて驚くというコミカルな場面があるが、これは脚色だそうである。
 小えんは靖国神社でよくすれ違う牧という学生(藤巻潤)に恋心をいだき、ある日、ついに名前を名乗りあうが、牧はもう卒業で、九段会館のアルバイトをやめるので、会うことはないといわれる。
 置屋が営業停止になったのを機に新宿のクラブに移るが、そこで筒井と再会し、二号になる。山村聰は温厚で気前のいい紳士の役が多いが、筒井は口うるさく吝嗇な中小企業のオヤジで、いつもとイメージが違う。
 小えんは映画館(テアトル東京!)で年下の純朴な工員(高見国一)と知りあい、彼を弟のようにかわいがるが、自分から旅館に誘ってしまう。彼女は体をあたえる以外、男と親しくなる術を知らないのだろう。
 筒井は手に職をつけろが口癖で、小唄の稽古をはじめるが、意外にも小唄の才能があったことがわかるが、筒井は胃潰瘍で入院し、あっけなく死んでしまう。小えんは元の置屋にもどる。
 小えんはエリート社員になった牧から外人を接待する座敷に呼ばれるが、夜の接待もするようにいわれて傷つく。
 小えんは若い工員と久しぶりにあい、彼が行きたがっていた信州の山に誘うが、列車の中で家族を連れた矢島を見かける。矢島はワサビ問屋の婿にはいっていたが、小えんに言葉をかけることもならず、物欲しげで、卑屈な感じである。
 登山口の駅で降りるが、小えんは育ててくれた叔父のところへいくと言って、工員と別れ一人駅の待合室に残る。一瞬、矢島を訪ねるのかと思ったが、しっかりした表情をしているので、男に頼らぬ生き方をしようと心を決めたということか。
 全盛期の若尾文子の美しさもさることながら、揺るぎのない映画スタイルに背筋が伸びた。これはまさに人間喜劇である。