「祇園囃子」
昼の祇園を普段着の栄子(若尾文子)がスタスタ歩いていく場面からはじまる。伝統と格式がものをいう花街に負けん気の強そうな栄子が一人はいっていく姿にこの映画のテーマが集約されている。
栄子は一軒の置屋にはいっていき、美代春(木暮実千代)に面会し、舞妓にしてくれと頼みこむ。栄子の母も芸者で美代春の同輩だったが、西陣の織屋の沢本(進藤英太郎)に落籍されて栄子を生んだが、沢本の家業が左前になってわかれ、最近亡くなっていた。
美代春は実の父親の沢本が保証人になるならというが、落ちぶれ、中風で体の自由がきかなくなった沢本は頑として保証人の判をつかない。頼まれたらいやとはいえない性格の美代春は保証人なしに栄子を引きうける。
一年の修行の後に栄子は美代吉としてデビューすることになるが、沢本は当てにならず、美代春が支度をしてやらなければならない。美代春は懇意の料亭の女将、お君(浪花千栄子)に金を借り、支度を調える。
栄子は持ち前の天真爛漫さでたちまち人気者になるが、楠田(河津清三郎)という大企業の御曹司に気にいられ、しかも楠田が受注を狙うプロジェクトの責任者である神崎という役人が美代春に執心したことから二人の行く末に暗雲が立ちこめる。栄子は唇を求めてきた楠田の鼻に噛みつき、美代春はお君がお膳立てした神崎の座敷から逃げてしまったのだ。
楠田は鼻に噛みつかれた上に、受注が宙に浮いてしまい、踏んだり蹴ったり。美代春が神崎を拒否しつづけるなら、会社の存続があやうくなる。とりなしを頼まれたお君は回状をまわし、美代春と栄子を座敷に出られなくしてしまう。
芸者といっても所詮売物買物。料亭の意向に逆らうなど考えられないことだったが、アプレゲールの栄子に触発されて、美代春も自分というものに目覚める。二人は花街のしきたりに屈せずに自分をつらぬけるのか。
この映画の見どころは木暮、若尾、浪花という三女優の競演にある。若尾の生意気な可愛らしさ、浪花の親切ごかしの老獪さもいいが、なんといっても木暮がすごい。匂わんばかりの色香と気っ風のよさ、そして芸者としての意地が美代春を大きな存在にしている。