金毘羅さんと江戸百図と自画像
芸大美術館で「金刀比羅宮 書院の美」展を見た。金毘羅さんの門外不出の襖絵をまとめて見ることができる展覧会だけに混んでいた。
三階の第一会場は順路の両側に畳も含めて書院を再現し、襖をはめこんである。襖絵は襖の両面に描かれているので、こういう展示法になったのだろう。
まず、円山応挙。虎図が多いが、生きた虎を知らずに描いたので、迫力はあるが、どれも微妙に猫っぽく、愛敬がある。有名な「八方睨みの虎」は太りすぎのどら猫という感じである。
岸岱は一番作品が多く、どれもすばらしかった。地味で手堅いというイメージをもっていたが、結構ゴージャスである。
若冲は一間だけだったが、三面を花の図を整然と並べ、植物図鑑風である。照明は暗かったが、至近距離で見ることができた。色が昨日描いたかのように鮮かで、細部まで息苦しいくらい緻密に描きこまれている。ただ、若冲の過剰さは枠の決まった襖絵という場では必ずしもプラスには働いていないと思った。
最後は現役の田窪恭治氏で、野原を描いた大作だったが、襖絵なのに壁画のような野放図なスケール感がある。ヨーロッパで礼拝堂のフレスコ画の修復を長くやっていた人だそうで、壁画の感覚が身についているのだろう。
地下二階の第二会場は絵馬や奉納品の展示で、ここは神社らしい珍品がそろっていた。絵馬といっても、60インチの薄型テレビくらいある。大きさを張りあうような風潮があったのだろうか。象頭山の参詣図もよかった。
船大工が作ったという和船の大型模型が二隻鎮座していた。三越の名前のはいった流し樽もあった。酒をいれた樽を海に流すと、拾った人がちゃんと金毘羅さんに届けたそうである。
地下二階の大きな方の展示室では広重の「江戸百景」を展示していた。芸大美術館所蔵品の修復完了を記念した展示らしいが、金毘羅さんの入場料に含まれている。
押し売りの展覧会かと抵抗があったが、見るとこれがおもしろいのである。
馴染みのある地名ばかりだが、現在と同じなのは浅草寺と不忍池、湯島聖堂の脇の坂道くらいで、他はまったく変わってしまっている。
説明文が興味深かったが、読みきれないので図録を買ってきた。説明文をじっくり読むと、面白さが倍加する。
美術館を出たところに、NHKでやった「自画像の証言」展の案内があったのではいってみた。こちらは無料。卒業制作に自画像を描かせるのは洋画科だけだったが、最近は他の学科も自画像を描かせているそうだ。
一階が戦前、二階が戦後という構成だが、二階は外光をとりいれて明るいこともあるにしても、色彩が急に華やかになる。戦前の作品はどれも重厚というか、重苦しい。大半は知らない画家だが、錚々たる画家もまじっている。
最近の作品には小学生の夏休みの自由研究みたいなものまであって、これで卒業させていいのかと思った。
芸大収蔵の自画像は修復や科学的鑑定の実習に使われているという。青木繁の自画像の科学的鑑定結果がはりだされていたが、手作りのキャンバスに描いていたことがわかったそうだ。
思いがけず三つの展覧会を見ることができたが、二時間半かかった。炎天下、上野駅にもどるのが辛かった。