2007年9月19日水曜日

「アメリカ人はどこから来たのか」

 NHKの「地球ドラマチック」で英国グラナダTV製作の「アメリカ人はどこから来たのか」が放映された。
 アメリカ先住民は氷河期にベーリンジア(海面低下で陸続きになったベーリング海峡のこと)を通ってアラスカに移住した新モンゴロイドの子孫と考えられている。氷河期のアラスカはツンドラ地帯で狩猟生活ができたが、カナダにあたる地域には広大な氷河が広がり、1万2千年前にロッキー山脈東側に無氷回廊が出現するまでは人類の進出を阻んでいた。定説にしたがえば、1万2千年以前にはアラスカ以外の南北アメリカ大陸には人類は住んでいなかったことになる。
 しかし、近年、南北アメリカ大陸に数万年前の人類の痕跡が次々と発見されている。彼らは寒冷地適応した新モンゴロイドではなく、縄文人に近い旧モンゴロイドだったらしい。
 もし縄文人だとしたら、千島列島からアリューシャン列島をたどり、カナダ西岸を南下する島づたいのルートでわたったと考えられるが、この番組ではジャイアントケルプの海中林ルートを紹介していた。
 ジャイアントケルプは昆布の一種で、百メートル以上に成長して鬱蒼たる海中林を作り、南の珊瑚礁のように多くの生物に住処を提供している。北米大陸の太平洋岸沿いのジャイアントケルプの海中林が有名だが、実は海中林はアリューシャン列島をへて千島列島沿いに北海道までつづいているという。
 ジャイアントケルプの先端は海面に達し、浮遊性の海藻がからまって、波を静めるので、ラッコが睡眠場所にしているという。海中林沿いに進めば、食物が豊富なので、貧弱な舟でも十分アメリカ大陸に到達できるそうである。
 番組ではもう一つ、大西洋を横断するルートの存在も指摘していた。
 北米大陸にヨーロッパと同じ様式の石器が出土することは『モンゴロイドの地球 第5巻』でも指摘されていたが、新石器時代に大西洋横断は考えにくいので、真剣に検討されることはなかった。
 氷河時代、北大西洋の北半分は氷床で覆われていたが、氷床の縁の部分では下降水流が発生し、海底の養分が攪拌されて豊かな漁場となるので、オットセイやトドのような海獣が集まってくる。氷床の縁沿いに海獣猟をしているうちに、北米大陸に達することは十分考えられるというのである。
 こう見てくると、アメリカ大陸に最終氷期以前から人類が住んでいたとしても不思議ではなくなる。
 しかし、ここで新たな問題が浮上する。現在のアメリカ先住民は新モンゴロイドであり、縄文人の痕跡もコーカソイドの痕跡も認められないことだ。無氷回廊が開きアラスカのマンモス・ハンターが南下した後に、アメリカ大陸の住民がいれかわった可能性があるのである。
 番組では慎重な留保をしつつも、マンモス・ハンターによる旧先住民のジェノサイドの可能性をほのめかしていた。PC的にはきわどいが、ありえない話ではない。