「赤線地帯」
吉原の「夢の里」という店を舞台にした娼婦の群像劇で、売春防止法が国会で争点となっていた1956年3月に公開された。映画の中では売春防止法は継続審議になったが、実際は公開2ヶ月後の5月に可決されている。
「夢の里」は特飲街組合の役員をやっている田谷倉造(進藤英太郎)とその妻の辰子(沢村貞子)が経営する女郎屋で、倉造は娼婦のことを本当に考えているのは自分たちだ、政府に代わって福祉事業をやっているんだが口癖である。
「夢の里」のかかえる女は5人いるが、みなワケありだ。
店一番の売れっ子のやすみ(若尾文子)は疑獄事件にまきこまれた父親の裁判費用のために娼婦になった女で、男社会に対して復讐心をもやし、なんとかしてのし上がろうとしている。あの手この手で男から金を引きだしては、仲間の娼婦に金を貸して金利を稼いでいる。貸し布団屋のニコニコ堂の主人(十朱久雄)を手玉にとって夜逃げをさせ、ちゃっかり居抜きで店を買って後釜に納まる。しかし、売春防止法が可決されたら、商売あがったりだろう。赤線を離れられないところに悲しさを感じる。
ハナエ(木暮実千代)は結核の亭主をかかえる通いの娼婦で、子供をおぶった亭主がむかえにくるのがわびしい。眼鏡をかけてすっかり所帯やつれしていて、その上、亭主を亡くすという悲しい役である。木暮が眼鏡をかけコミカルに演じているのが救いになっている。木暮はコメディエンヌとしても一流である。
若尾と木暮の変貌ぶりからすると「祇園囃子」から10年くらいたっていそうだが、実際は3年しかたっていない。演技力恐るべし。
ミッキー(京マチ子)は栄公(菅原健二)の連れてきたニューフェース。ゴージャスな肉体を強調した洋装で人気者になるが、浪費家で前借りばかりしている。彼女神戸の貿易商の娘で、母親をないがしろにした父親に反発して娼婦になったといういわくがある。世間体を気にした父親がむかえにくるが、父親の女遊びをなじって追いかえす。
より江(町田博子)は東北訛の垢抜けない女だが、結婚を約束した男がおり、すこしづつ所帯道具を買いためているが、前借がなかなか減らず、いつ結婚できるかわからない。ミッキーが前借は無効だから、逃げてしまえば警察沙汰にできないと教えたのをきっかけに、他の娼婦が協力して首尾よく逃げることに成功する。しかし、結婚生活は上手くゆかず、すぐにもどってきてしまう。
ゆめ子(三益愛子)は満洲から息子を連れて引きあげてきた未亡人。戦死した夫の両親と息子を養うために東京に出てきて、娼婦に身を落としている。息子といっしょに暮らすことを夢見ているが、集団就職で上京した息子が店を訪ねてくると居留守を使い会おうとしない。しかし、息子は厚化粧で客に媚びる母親の姿を見てしまい、ショックを受ける。ゆめ子は息子の勤める工場に会いにいくが、息子に拒否され、最後は発狂する。
この映画、大昔にも見ているが、今回の方がおもしろく見ることができた。日本映画全盛期をささえた大女優の競演で、こんな映画は二度と撮れない。