2007年6月30日土曜日

「ゾディアック」

 ゾディアック事件を追う男たちを描いた実話で、本作の後半の主人公になるロバート・グレイスミスのノンフィクションを原作としている。
 ゾディアック事件とは1960年代末に起きた連続殺人事件で、犯人がゾディアック(12星座)と名乗り、新聞社に暗号の脅迫状を送りつけたことから全米の注目を集めた。犠牲者は37人も出たが、相当部分が模倣犯の犯行ではないかと見られている。犯人はいまだにつかまっていないが、「ダーティハリー」など、この事件をモデルにした映画が何本もつくられ、ドキュメンタリーまでDVDになっている。
 本作は2時間37分という長尺であるが、最初の40分ほどはゾディアックが次々と事件を起し、「セブン」を思わせるサイコスリラー的緊迫感があるものの、あとの2時間は出口のない迷路を延々さまよいつづける。
 追う側は死屍累々で、敏腕記者は酒に身を持ち崩して会社を追われるし、やり手の刑事は脅迫状の偽装という濡衣を着せられて担当からはずされる。最後にバトンを託されたグレイスミスも生活が破綻し、妻子に逃げられる。フィンチャー監督は犯人は誰かよりも、犯人を追う男たちがいかに壊れていくかに焦点をあわせている。
 ゾディアック探しは徳川埋蔵金のようなもので、こういう無限ループにはまりこむのは男の脳の構造的欠陥なのかもしれない。わたし自身、のめりこむ性格なので、彼らの恍惚と絶望はよくわかる。男たちがなぜ蠟燭に飛びこむ蛾のように事件に引きつけられるのかは、女性にはまずわからないだろう。