2007年5月21日月曜日

「リバティーン」

 ドライデンの同時代人で卑猥な諷刺詩で英文学史に悪名を残す第二代ロチェスター伯、ジョン・ウィルモットの後半生を描いた映画である。表題の「リバティーン」とはリベルタン libertin の英語読みで、ジョンはサド侯爵の大先輩にあたる遊蕩児だった。ジョン役はジョニー・デップで、久々の破滅型を楽しそうに演じている。
 ジョンの父親のフィリップ・ウィルモットは清教徒革命時代、チャールズ二世(ジョン・マルコヴィッチ)を命をかけて守った功績で初代ロチェスター伯となる。息子のジョンは18歳から宮廷に出入するようになり、チャールズ二世から文才を愛され、「余の時代のシェイクスピアになれ」と期待されるが、破廉恥事件をたびたび起している。
 映画は猥褻な詩を王妃の面前で朗読したかどで追放されていたジョンが恩赦でロンドンにもどってくるところからはじまる。ドライデンをはじめとする友人たちと騒いだ後、芝居小屋にくりだし、客からやじり倒されている新人女優、エリザベス・バリー(サマンサ・モートン)に目をとめる。才能を見ぬいたジョンは劇場に手を回して解雇を撤回させ、演技指導をはじめる。
 ここがすごい。当時の女優は娼婦と紙一重だったが、ジョンの申し出を貴族の傲慢さと誤解したエリザベスは激しく抵抗するのだ。ジョンの指導に演技がどんどん変わっていくくだりも見ものだ。この映画はもとはスティーヴン・ジェフリーズの戯曲だったそうだが、映画でこの迫力なら、舞台では鬼気迫る見せ場になっていただろう。
 ジョンはチャールズ二世からフランス大使の前で上演する新作を依頼されるが、女優たちが舞台の上で巨大な張形で自慰をはじめたり、全裸の男女が実際の性交をはじめるというとんでもない代物で、あきれた王は舞台にのぼってジョンを叱りつける(こんなこと、本当にあったのだろうか)。
 面子をつぶされたジョンは姿をくらまし、イカサマ医者になったりして砲塔三昧の生活を送るが、梅毒の症状が表面化し、顔にゴム腫ができたり、鼻がもげたりする。
 最期はさんざん裏切った妻に看とられて33年の生涯を終えるが、ジョンもさることながら、ジョンを生んだ王政復古時代に興味がそそられた。
 王政復古時代は清教徒革命の反動で風俗が頽廃したといわれているが、この映画を見ると半端ではない。こんなに面白い時代だったとは知らなかった。