「靉光」展
日本シュルレアリスムの代表者とされる靉光の生誕百年を記念した展覧会である。習作時代から晩年の上向き加減の自画像まで、120点余が集められている。スケッチブックや書簡、妻となる女性の父親に出した身上書、軍隊で使っていた飯盒まで展示されている。
初期作品はルオーの影響が濃く、くすんだ色調の絵具を厚塗りしている。それがしだいに蛇紋岩のような質感に変わっていき、息苦しいほどの存在感を獲得していく。その頂点に「眼のある風景」がある。
靉光は画家として世に出る前、印刷所で図案工の見習をしていたというだけに、図案風の作品もすくなくない。溶した蠟やクレヨンに岩絵具を混ぜて描いた「ロウ画」と呼ばれる作品は色が平坦に塗られているが、暗いたたずまいは靉光のものだ。
靉光は日本画も描いていた。墨絵が多いが、花や鶏、牛を細密な線で息詰るばかりに描きこんでいる。「二重像」も墨だった。帯の元図が展示されていたが、正絹のぬめっとした地に真紅のまがまがしい鶏頭が屹立していて、こんな帯、誰がしめるんだろうと思った。
戦争がはじまってからのリアリズムに回帰した作品は寡黙で、どれもすばらしかった。シュルレアリスム的な作品が許されなくなったという事情もあろうが、これだけの作品が描けたということは、決して圧力に屈した結果ではないだろう。
ただ、無理矢理成熟させられてしまったという印象もないわけではない。戦病死という最期を知っているせいかもしれないが。