2007年5月15日火曜日

「あなたになら言える秘密のこと」

 「死ぬまでにしたい10のこと」のイザベル・コイシェ監督がふたたびサラ・ポリーを主役に撮った映画である。
 はじまりが謎めいている。英国の紡績工場で思いつめた顔で働くハンナは上司に呼ばれ、無遅刻無欠勤で労働組合から苦情がきているから一ヶ月休暇をとれと厳命される。
 上司はハワイの旅行パンフレットを押しつけるが、ハンナは北に向かう長距離バスに乗り、民宿に宿をとる。そして怪しげな日本料理店で看護士を探していると電話する男に自分から声をかけ、油田事故で一時的に視力を失った男を介護するために、北海に浮かぶ掘削櫓にヘリコプターで向かう。この女、看護士だったのか。
 そもそもハンナとは何者なのか。白米のご飯と鶏の唐揚げばかり食べているらしく、冷蔵庫の中には鶏の唐揚げしかない。眉間に皺を寄せ、誰とも喋らず、黙々と働く。四角ばった発音からするとドイツか東欧の移民らしいが、喋らないのは移民という理由だけではなさそうだ。
 海上の掘削所でも無口で禁欲的な生活スタイルは変わらない。ハンナが看病するのはジョゼフ(ティム・ロビンス)という陽気な大男で、上半身に火傷を負い、角膜が焦げたので二週間、目が見えなくなっている。ジョゼフがいくら冗談を言っても、ハンナはとりあわない。
 事故のために採掘は中止され、掘削所には最小限のメンテナンス要員と波を調査している海洋学者しかいない。誰もが嫌がる海上の掘削所に来るくらいだから、みな一癖ありそうだが、ハンナは居心地よさそうだ。
 ジョゼフが内地へ運ばれる前夜、ハンナははじめて彼に秘密を明かす。それはさんざん引っぱっただけの重みのある秘密だった。目の見えない相手だからこそ明かせる秘密がある、ということだ。
 ジョゼフはハンナの顔を一度も見ずに別れるが、ラストは救いがある。
 サラ・ポリーは「死ぬまでにしたい10のこと」につづいて、いい仕事をした。