2007年5月29日火曜日

アクセシビリティはビジネスチャンスになるか

 ICPFセミナー「情報アクセシビリティをビジネスチャンスに」を聴講してきた。講師は東洋大の山田肇氏。山田氏は JIS X 8341(高齢者・障害者等配慮設計指針)第一部の主査や、情報アクセシビリティ国際標準化調査研究委員会の委員長をつとめていて、『市民にやさしい自治体ウェブサイト』という著書もある。
 アクセシビリティとビジネスチャンスというとりあわせを奇異に感じる人がいるかもしれないが、これにはアメリカのリハビリ法508条がからんでいる。
 アメリカは第二次大戦後も継続的に戦争をしてきた。今もイラクでは多くのアメリカ兵が死傷しており、障碍者となって帰国する人がすくなくない。アメリカ政府は傷痍軍人を政府職員として雇用しているが、リハビリ法508条は公共調達品に障碍者対応を義務づけた法律で、もし役所が障碍者に使えないFAXや電話機、パソコンなどを購入したら、購入担当の役人が訴えられるという厳しい内容だ。
 公共調達はどの国でもGDPの10%前後あり、無視できない市場である。508条が施行された2001年当時は、日本では508条を非関税障壁と見る向きが多かったが、障碍者対応は日本企業の得意技の活かせる分野であることがわかってきた。障碍者対応は高齢者対応と重なる部分が大きいからだ。
 もともと日本の消費者は世界一うるさく、メーカーは消費者の重箱の隅をつつくような要求に応えてきた伝統がある。裕福な高齢者が多く、高付加価値の高齢者向け商品の市場がある上に、欧米と違って企業のトップが老人ばかりなので、高齢者向けの企画が通りやすい(これが意外に大きいらしい)。
 経済産業省もそれを理解していて、山田氏は経済産業省の支援のもとに、JIS X 8341をベースにしたアクセシビリティの国際規格 IS 9241-20 制定に動いてきたという。
 国際規格制定の舞台裏は文字コードの取材である程度知識があるので、実におもしろく聞いた。文字コードでは日本は後手後手にまわり、失地回復に十年以上かかったが、アクセシビリティではしたたかに立ちまわって、アメリカ包囲網を作りあげていた。日本もやるものである。
 残念なのは、日本の高齢者・障害者向け技術が世界で待望されているのに、企業の側はわかっていないこと。たとえば、高齢者向け携帯電話の「らくらくフォン」。欧米のアクセシビリティの関係者はみな「らくらくフォン」の機能に驚嘆し、早く輸出してほしいと言っているそうだが、富士通にそれを伝えても、第二世代携帯電話で敗れた後遺症からか、海外に出す気がない。山田氏は「らくらくフォン」のよさは通信方式とは無関係なので、海外でヒットするのは間違いないのにと嘆いていた。