2008年1月6日日曜日

キッシンジャーの年頭予測

 「日高義樹ワシントン・リポート」で新春恒例の「キッシンジャー博士の十の予測」をやっていた。例年たいしたことは言わないが、今年は中国関係の楽観的な見通しが目についた。北京五輪後のバブル崩壊はなく、民族主義の暴発もないと断言したのである。

 ロシアに対しても好意的な見方をしていた。プーチンは新たなナショナル・アイデンティティをロシア国民にあたえようとしているだけで、第二の冷戦をはじめるつもりはない。ロシアは石油を武器に使っているが、それは産油国ならどこでもやっていることだ。石油はいつかは売らなければならないし、買い手に信頼されるためには安定供給をせざるをえないというわけだ。

 ロシア擁護論には一応説得力があるが、中国楽観論の方は眉に唾をつけて聞いておいた方がいい。不動産バブルが膨らむところまで膨らんでいるし、サブプライム・ローン問題が長引いて国際金融が不安定になっている。地域格差や都市部の貧富の差が危機的なところまで広がっている。

 年末にNHKの「激流中国」をまとめて見たが、中国の庶民は無理をしてでも子供を大学にいかせれば、将来、必ず豊かになれるという幻想で耐えているようである。しかし大学出はもうだぶついているし、条件のいい仕事は共産党幹部の子弟でなければつくことができない。無理をして大学にいっても豊かになれないとわかったら、庶民の間にたまりにたまった不満はどうなるのか。もし景気が失速して失業者が街にあふれたら、キッシンジャーの楽観論とは裏腹に、中国は大変なことになるだろう。

 イラクについても楽観的な見方をしていた。ちょっと驚いたのはキッシンジャーも日高氏も昨年春の米軍増派が成功したという前提で話していることだった。日本のマスコミは自爆テロの激化ばかりを伝え、サイゴン陥落前夜のベトナムのような印象を作りあげているが、米軍増派で掃討が進みイラク軍に引き継ぐ体制が整いつつあるらしい。自爆テロが増えたのは自爆テロ以外の攻撃が出来なくなったからなのかもしれない。

 楽観論がつづく中、北朝鮮についてだけは厳しい見方をしていた。一応、北朝鮮が核兵器と核物質と核拡散をすべて申告し、破棄をはじめればライス訪朝もありうると語ったが、北朝鮮は今のところ約束を何も果たしていないし、またぞろ引き伸ばしをはかっている疑いがあると懸念を述べた。ブッシュ親書についても北朝鮮が約束を守るなら賢明な方策だったと言えるが、北朝鮮が親書の文言に安心し、自己正当化をするなら賢明ではなかったと突きはなしている。

 日高氏がキッシンジャーがかつて金正日の退陣以外に北朝鮮問題の解決はないと語った点をとりあげ、今も同じ考えかと訊いたところ、北朝鮮が核兵器を破棄したら金正日体制はもちこたえられない、アメリカが転覆させるまでもないと切って捨てていた。

 北朝鮮が韓国に侵攻する可能性については否定はしなかった。国家体制が崩壊しているので1950年のようなことはできないが、一週間かそこらローカルな騒動を起こすことはできるというわけだ。

 キッシンジャーは今年は大統領選挙があるので現状維持だと締めくくっていたが、北東アジアはあぶないかもしれない。